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東京高等裁判所 昭和30年(ラ)563号 決定

抗告人 池田政治

主文

本件抗告はこれを却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一、本件抗告の趣旨並びに理由は、別紙記載のとおりである。

第二、決定理由

記録を精査するに、本件につき原裁判所か競落許可決定を言渡したのは、競落期日たる昭和三十一年八月八日であり、抗告人が右競落許可決定に対する抗告状を当裁判所に提出したのは、即時抗告期間経過後である同年九月三十日である。よつて先ず本件の場合民事訴訟法第百五十九条の適用により、かかる懈怠したる訴訟行為の追完が許さるべきや否やについて、判断する。

元来強制競売たると任意競売たるをとわず、競売期日及び競落期日の日時並びに利害関係人競売期日に出頭すべき旨を競売期日の公告の要件としている。(民事訴訟法第六百五十八条、第五号、第七号、第十号、競売法第二十九条)。なお任意競売手続において、競売期日は競売手続の利害関係人にこれを通知することを要するとした関係上(競売法第二十七条第二項)、強制競売手続においても直接の明文はないが、右公告以外利害関係人に競売期日の通知をするのが手続上の慣例であり、右は一応妥当な方法であると考えられる。しかし競落期日の通知にいたつては、民事訴訟法はもとより競売法においてもこれをなすことを要する旨の規定はないのであるが、苟くも競売期日の通知ある限り、競落期日は公告によつてこれを知り得べきことを前提としていることは明らかである。そこで結局本件強制競売手続において、抗告人がその抗告理由に主張する如く、抗告人に対する競売期日の通知が適法になされておらず、しかもそのため抗告人としてはその責に帰すべからざる事由により、競売期日ひいて本件公告にかかる競落期日に競落許可決定の言渡のあつたことを了知しなかつたとすれば、民事訴訟法第百五十九条の規定により懈怠した訴訟行為(本件抗告)の追完をなし得べき筋合である。

ところが本件記録並びに当審における抗告人の元法定代理人親権者であつた池田竹治の審訊の結果によつて考うるに、抗告人は昭和十年五月二日生で昭和三十年五月二日を以て成年に達したものであるところ、本件競売開始決定のあつた昭和三十年一月二十八日当時及び該開始決定正本の送達のあつた同年二月十二日頃は、未成年者であり、右送達も父たる池田竹治において決定代理人としてこれを受けていたのであるが、抗告人が成年に達した後である昭和三十年五月二十八日に第一回の競売期日(同年六月十八日)、また同年七月二十二日に第二回の競売期日(同年八月六日)の通知書が、依然法定代理人池田竹治宛に送達されているのであるから、(右第二回の競売期日に競売され同月八日の競落期日に競落許可決定が言渡された)右競売期日の通知書の送達はなるほど不適式ではあるが、一面抗告人は前記競売開始決定正本の送達を受けた当時から、前記競売期日の通知を経て本件競落許可決定に至るまで、終始父たる竹治と本件競売建物(東京都江東区亀戸町七丁目二百十五番地所在)内に同居していたことは、明らかであるから、他に特別な反証のない限り、前記競売期日もこれを知つていたものと推認するを相当とすべく、若しこれを知らなかつたとしても、前説示の従前の関係からみてもこの点につき竹治に確め得た筈であり、結局これを知らなかつたことは抗告人の過失に基ずくものと謂わざるを得ない。従つて前記競売期日の通知が不適式であるとの一事により、抗告人がその責に帰すべからざる事由により本件競落許可決定の言渡のあつたことを知らずに、即時抗告期間を遵守することができなかつたものとは、一概に断定できない筋合である。その他記録を精査するも本件抗告申立に関する不変期間不遵守につき、その行為の追完を許容すべき事由を発見し難いから、右即時抗告申立期間を徒過した本件抗告は、既にこの点において不適法として却下すべきものとし、抗告費用は抗告人に負担せしめ、主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

抗告の趣旨

債権者滝川利正債務者池田政治間の東京地方裁判所昭和三十年(ヌ)第三〇号不動産競売事件につき昭和三十年八月八日同庁がなしたる競落許可決定は之を取り消し第一回競売通知書の原状に回復させる。との御裁判を御願いする。

抗告理由

一、抗告人は昭和十年五月二日生れにて昭和三十年五月二日初めて成年に達した者である。

それで本件競売申立を債権者がした時(昭和三十年一月二十日)は未だ未成年だつたので債権者は抗告人に法定代理人(抗告人の父)を附記して申請して居る。

競売開始決定は同年一月二十八日に為されその送達は法定代理人宛になされて居る。

二、然し其の後の第一回競売通知は五月四日に発せられ既に抗告人が成年に達した後のことであり、

第二回の競売通知は同年七月十日発せられて居るから当然抗告人に送達すべき筈のもの、

然るに抗告人は此の競売通知を一度も受取つて居ない、(記録御参照)依然前の法定代理人に重ね重ね送達あり。

三、競売通知は競売事件に於ては重要な役割あるものなることは呶々を要せぬこと。

之れ無かりし故競落許可決定が確保する迄抗告人は不知の裡に続行手続は終了したと云う訳である。

競売通知の有無が裁判に影響ない僅かの瑕疵と云うことは出来ない。

四、扨て何故抗告人が此の違法を強く主張するか。

(1)  親権者たる父池田竹治は法定代理人としての任務の全然出来得る資格なき酒惚れした稍々精神異状者である。斯るが故に本件債務名義となつた支払命令に対しても異議申立を為さず為めに其儘仮執行宣言を附され確定して了つた。

(2)  茲に申し述べても愚痴以上のものではないが、

本件債務は元来高利貸債権者が文書偽造して成り立たせた(支払命令異議なかりし故)債権であり前述の親権者の無知、耗弱を悪用しての『支払命令に異議申立せざるべしと予想』して此の挙に出たものである。

以上により申請趣旨の如き裁判を御願いいたしまする。

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